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2011.05.29

着地型観光の功罪~分断されたサプライチェーン

”着地型観光は、観光のサプライチェーンを分断してしまった”

東日本の大震災では、自動車や電子機器など、
日本の高度な技術を持つ部品メーカーが
世界中に商品を提供していたことが、そして
被災しサプライチェーンが分断されてしまったことが
多く報道されています。

旅行のサプライチェーン(物流を伴わない、また消費者視点から
考えれば「バリューチェーン」といったほうが当てはまるのかも知れませんが)は、
消費者が観光をしようとおもい、観光地で消費が行われるまでを
さします。

そのサプライチェーンが、今、着地型観光を進めることによって
分断されつつあるのではないか、と懸念しています。

観光サービスを知り、それを消費するまで、観光の情報やサービスの価値が
伝達され、予約をし、実際に観光行動となります。

では着地型観光はどうでしょうか。

地域が主体となってすすめるツーリズムとして、
着地型観光が各地でとりくまれて数年経ちますが、
さて、実際にうまくいった、と聞くことが少ない気がしています。
もちろんすべての取組が100%うまくいく、ということは
ないでしょうけれど、はたしてどれほ成功しているか。

着地型とは地域が主体となって進める、という意味です。
しかしそれが、「発型」の否定のための存在、単に「発型」の
アンチテーゼとして存在してはいないでしょうか。

地域はもちろん、そんなことは考えず一所懸命
取り組んでいることでしょう。そういうことをいうのは
「観光コンサルタント」だけかもしれません。


しかし、着地型観光をすすめているが、ぜんぜん商品が売れない、
どうしたことか、

そう思っている地域の方は多いのではないでしょうか。


地域に人を迎え入れることにより、観光・交流により
地域活性化をしよう、そのために着地型観光をしよう、
とおもったら、実はそこにはなくてはならないもの、
「顧客の視点」と「顧客に対する価値」を考えなくては
ならないのです。


それなしに、ひたすら地域が主導で
着地型観光を考えていないでしょうか。


観光は発地と着地とその途中が、それぞれ要素となる
「システム」です。
地域がどんなにがんばっても、それだけで人が来るわけでは
けしてありません。

今の観光は、

 マスツーリズム=消費者にとっての旅の大衆化

 
を実現しているシステムです。

(ところで、マスツーリズムはけして団体旅行、という意味ではありません。
 エコツアーもその意味でマスツーリズムという現象のしたにあるものです。)

現代はマスツーリズムというシステムの中にいる、
それは発地と着地が一体化したものなのです。

そこに着地だけががんばっている着地型観光は、
売れるはずがありません。


現代に成立しているマスツーリズムという
システムを変えるには、イノベーションが必要です。

イノベーションなしには今のままの着地型観光は
いつまでたってもけして栄えません。


現在、成功しているといわれる着地型観光の事業者は
たとえば南信州観光公社は、教育旅行の営業からはじまっているのです。
つまり、現在のツーリズムを成立させている観光のシステムに
内包されて機能しているのです。

それではシステムとは何か、現代のツーリズムシステムを
機能させているのは何か、
それは、次回ご紹介することにしましょう。

着地型観光を成功させることは、
観光のシステムを理解することから始まります。



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2011.05.20

観光人類学がめざすところ 「観光経験の人類学」

観光人類学、という分野に初めてであったときの
衝撃はいまだに忘れることはできません。

もともと地理学を専攻していたこともあり、文化人類学は
フィールドを基にする学問として近しい関係にあります。

その文化人類学が「観光」を対象として解釈をするとは。


例によって海外でこの分野は発展してきましたが、
日本にもいくつかの書籍があります。

最新のものがこちらです。


観光経験の人類学
みやげものとガイドの「ものがたり」をめぐって
橋本和也

また、研究には危うさも同居している、と教えられたときのことも
忘れることができません。
自分の仮説を実証するためにフィールドに出るのですが
都合のいいことだけを収集し解釈してしまう、というわなが待ち構えています。


以下の事例を取り上げることはもしかすると著者の主張の主流からはずれフ
ェアではないと言われてしまうかもしれませんが、
たとえば著者はこのように主張しています。


湯布院は「地域性」を創造し「地域文化観光」を推進した。
蒸したて酒まんじゅう、ねぎみそせんべい、豆腐アイス、などは外部資本のもの、
辻馬車、音楽祭は、もともと地域のものではないがやり続けることによって
地域文化観光となった。。。

おそらく前者よりも後者を評価しているものと思われます。


評価自体は私も同感です。
たしかに酒まんじゅうは日本の他の地域でも売っている。
しかしはたして音楽祭もどこでもやっています、さて
本質的に何が違うのでしょう。


もちろんゆふいん音楽祭自体はとても価値があるものですし、
ゆふいんにしかない価値もあるでしょう。


しかし、ゆふいんで販売している酒まんじゅうは
そうならないのでしょうか。それならなぜなのでしょうか。
その違いの説明が十分にされているとはおもえないのです。


ちょっと気の利いた観光客であれば、
上記の2つの違いくらいはすぐに気がつきますし、
それを分かった上で、真正性がないことくらい分かった上で、
「○○へ行ってきました」まんじゅうを買っているでしょう。

たしかに筆者も「真正性」を議論することは場違いになってきている
とは指摘しています。(P182)


筆者はアニメの聖地の例も挙げています。
地域性が生成されるともいっています。
しかしアニメの聖地の生成とむかしからある遠野物語をきっかけとしたまちづくりは
インターネットの時代かどうかの違いは別として、本質的に何が違うのか。

(アニメの聖地の事例については、先行研究の紹介も含めて
安易に取り上げていることが、著者の研究のご実績からすると、著者らしくなく、
ちょっと残念です。)


そのあたりの分析と解釈に、私としてはまだ疑問が解決できません。

真正性からときはなたれたい、という意思は感じるものの、
かえってその呪縛からにげられない状況を感じざるを得ないと
感じてしまいます。

そんなこともふくめて、いろいろと考えさせられる本として、
一読の価値あり、とおもいます。

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2011.05.08

中国の観光研究

たまたまネットを見ていましたら、
中国、広州にある中山大学のMBAコースのHPに
こんな記事が紹介されていました。


中山大学管理学院

Jafar Jafari教授は、観光研究の投稿誌で老舗のひとつである
Annals of Tourism Researchの創始者で今もチームエディターで、
観光を理解する4つの土台の理論を提唱した世界的に有名な観光研究者です。

そんなかたが中国の大学院に呼ばれて講演をされているのですね。

中国の観光の進歩は早いです。


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2011.05.03

日帰り客を増やせ! は正しいか

観光に関する研究には、いろいろなアプローチがあります。

建築家による都市計画からのアプローチも古くからされているもののひとつです。


創造都市のための観光振興
宗田好史
 学芸出版社


この書籍は従来の観光政策を見直そうとするチャレンジングな姿勢が読み取れる
刺激的な内容になっています。


たとえば

 Chapter1 地方都市が観光振興のためにすべきこと

の最初の項は

 1 観光振興策の根本的間違い

というタイトルがつけられ、市場調査の不足が指摘されています。
ただこの指摘自体は新しいものではなく、観光研究者「以外」の研究者が
観光研究を始めるときに最初に直面する課題です。


 2 まず、日帰り観光客を確実に増やせ


この項目では、宿泊客を増やすことを狙いがちだが、
小さな投資で日帰り客の確保をすることも必要、と
主張されています。

日帰り客を増やすことは私も賛成です。


ところが別の観点でこの主張を読むと、私は
経営学の組織戦略を専門とされている沼上幹教授の

 「カテゴリー適応」

という論理的な欠如を指摘する概念を思い出します。


カテゴリー適応の典型的な例として、


インテルは儲かっているのに、ノートPCが儲からないのはなぜか
という問いに対して、
ノートPCはアセンブリ(組立)業だから儲からないのだが、
インテルはデバイス業だから儲かるのだ、と答えてしまうこと

があります。これは、カテゴリーに分類して説明しているだけであり
「なぜ」に答えていない、論理欠如が見られる、というのです。

(「ストーリーとしての競争戦略」楠木建、P33-34)


小さな投資で日帰り客の確保をすること、
日帰り客は消費額は少ないが、魅力的な宿と飲食店、
売れ筋商品を持つ店があれば、着実に経済効果が上がる

ということなのですが、日帰り客が増えることと
消費額が上がることは、実はイコールではないのです。
日帰り客が増えて単価が小さくなり続ければ消費額は
さがります。

だから、

 魅力的な宿と飲食店、売れ筋商品を持つ店があれば、
 着実に経済効果が上がる

ということなのでしょうけれど、これは自明のことであり、
日帰り客だけでなく宿泊客にも当てはまることですね。


ですので、なぜ日帰り客を増やすべきか、ということは、
大変重要な問いかけでありますが、もうすこし詳しい説明がほしいところです。

長崎さるく、の事例が取り上げられ、経済効果が大きかった、
とふれられていますが、ほんとうにそうだったのか、
検証もなしに成功事例として紹介されるのは(学者の姿勢としては)
たいへん残念です。

京都やイタリアの事例や具体的な提言が多く掲載されおり、
参考になることは多くありますが、
紹介されているマクロトレンド、一般論と、京都、イタリアの事例の
結びつきにもうすこし工夫が見られると、著者の深いご経験が
観光研究者にもやさしく伝わってくるのではないかと思われます。


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